【読書ノート】ケプラー疑惑
著者: 竹澤
書籍情報
ジョシュア・ギルダー アン-リー・ギルダー 著
山越幸江 訳
出版:2006/6/1
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感想
人類史最大の肉眼による天文観測家、ティコ・ブラーエを殺したのは、かのヨハネス・ケプラーだった!
という触れ込みの書籍だが、最初にこの説は現在は否定的な見方が主流であることを断っておこう。
だがしかし、現代においてヨハネス・ケプラーの偉大な功績の陰で、しばしばティコ・ブラーエの事が忘れられがちなのは事実である。この本は、そんなティコ・ブラーエの生涯に大きくスポットを当てた稀有な書籍である。
ティコはデンマーク貴族の生まれで、その将来も貴族としての働きを期待されていたが、天文学に魅せられてその道へと進んでいった変わり者だ。ティコは理論の検証にはまず正確な観測データが何よりも必要であると考え、肉眼による天体観測をその生涯の仕事とした。彼はとある島に巨大な天体観測施設を作り上げ、その中で膨大な観測データを蓄積した。そのデータはやがて彼の弟子だったケプラーに引き継がれ、そしてケプラーによる惑星の楕円運動の発見などへつながっていくのである。
ここで問題となるのが、ティコはケプラーを弟子に取った一年後に突然死去している点である。結果だけ見れば、ティコの死によってケプラーは膨大な観測データを継承し、さらにはティコの地位だった皇帝付きの天文学者としてのポストも手に入れることとなった。この、ある種棚から牡丹餅的なケプラーの出世劇は、ある疑いを後世から向けられることとなる。すなわち、ケプラーがティコを害したのではないかという疑いである。
この本の第一章のタイトルは「葬送」、すなわち偉大な天文学者、ティコ・ブラーエのプラハでの葬儀のシーンから物語のよう本は始まっていく。全体の構成も読者を飽きさせない工夫が随所に見られ。何よりも日本語で読める書籍中では随一と言っていいほどティコ・ブラーエという男の生涯にスポットライトを当てていることが特徴である。
ある種の歴史ドラマとし、二人の男の足跡を追った本書は歴史好き、科学史好きにはぜひ読んで頂きたい。